<概要>
銀行アプリを開発している金融機関にアジャイルコーチとして約半年間支援させて頂いた。その組織ではLeSS(大規模スクラム)というフレームワークを導入しており、機能横断型の4チーム以外にPOやBA、スクラムマスターなども関わり、40名近い体制で企画・開発していた。業務委託が多かったが心理的安全性が高い環境下で意見を出しやすく、私自身も関係者の方々と心地よくコミュニケーションを取ることができた。また、常に新しいことを取り込んだり試してみたりしてチャレンジできる土壌がすでに作られていたため、コーチとしても新しい取り組みを提言しやすく、前向きに物事を捉えて頂いた。環境面に不安要素はなかったが、プロセス面において成熟していない部分があるため、プロセスを中心とした改善を進めた。
<スケジュールと進め方>
2023/06-07 マネジメントとの合意形成と現場へのヒアリング
2023/08 スクラムイベントのオブザーブ
2023/09 改善点の整理と現場へのフィードバック
2023/10-12 特定チームへのコーチング、キーパーソンとの壁打ち
<課題>
最初の2〜3ヶ月で観察と分析を繰り返し、関係者にその結果をフィードバックし共通認識を持つことができた。プロセスを改善するためには、以下の課題を解決する必要がある。
①バックログに必要な情報が不足している
②ユーザーストーリーに関する共通理解が持てていなかった
③スプリントゴールが達成できない
④リリースするまでのリードタイムが長い
⑤組織の状態を測る指標が不足している
<改善策>
上記課題に対する改善提案を行い、次のスプリントから特定チームのスクラムイベントに参加し、チームメンバーと一緒に改善を実施した。
①Ready(準備完了の定義)、Done(完了の定義)、Acceptance Criteria(受入基準)が記述されていない、または正しく記述していないため、フィールドを追加して記入できるようにし、各項目にどういう内容を埋めるのかサンプルも提示して記述の仕方を理解してもらった
②ユーザーストーリーの書き方や分割方法、ストーリーポイントの付け方(見積方法含む)をトレーニングし、共通理解が持てるようにした
③スプリントゴールがそもそも正しく設定されていなかったため、そのスプリントが終わる時にはどのような価値がもたらされるか、どのような粒度感で表現するか(やることが多い場合はどうやって集約して表現するか)を指導した
④リードタイムを短縮するためにはプロセスの見える化が必要。Value Stream Mappingを用いてリリースに至るまでの作業を明らかにし、どこでどれだけ時間を費やしているのか、どこにボトルネックがありそうかをワークショップ参加者で確認して進めた
⑤組織として生産性や品質、エンゲージメントに関わるメトリクスを計測して評価する必要があったため、従来から取得している指標以外に新しいメトリクスを追加するよう提案し、各チームに計測してもらうようにした
<成果>
課題の大部分は解決し、自律的に改善するための道筋は作ることができた。また、毎スプリントこのようなコーチング及び改善活動を実施すると次第にチーム全体の改善のムードが高まっていき、メンバーたちの行動変容が起きてマインドの変化が見て取れた。多くの方から評価と感謝のコメントを頂き、コーチ冥利に尽きる支援であった。
<コーチングのポイント>
・一人一人と向き合ってコミュニケーションに時間を費やし、信頼関係を築いた。開発者だけでなく、POやBA、マネージャーの壁打ち相手にもなった
・マネジメント、スクラムマスター、チームの3つのレイヤーでそれぞれ改善を取り組み、全体の整合性を取ろうと試みた
・自分の持つ知識を惜しむことなく現場のメンバーに授け、腹落ちするまで論理的に説明し納得感が得られるようにした
・LeSSやScrumというフレームワークに固執せず、本来のアジャイルの考え方に基づいた行動になっているか、現代の仕事のやり方として洗練されているか、といった観点で会話するように配慮した